競輪の結果をまとめるところ

レース番号レース種別 半周ラップ(一周ラップ) 1着決まり手 2着決まり手 3着決まり手 J選手着 H選手着 B選手着 自分が使うときにまとめる。なんの責任もとりません。

【五場目】いわき平競輪場

「今日の決勝、だれが来るかね?」

 ベンチに座る私は、思わず隣を振り向いた。と、白髭を逆三角形伸ばした老人が座っている。綺麗に洗濯された作業服を着ていなければ、まるで世を捨てたような風貌である。陽に焼けた顔などはニコニコと赤らんでいるから、朝から酒が入っているのだろう。そして、その奥に小柄な中年男性が一人。二人は顔見知りらしく、さきほどの声はそちらに向け発せられたもの。これはやってしまった、と恥ずかしいばかりで、私はさっと目礼し、手元のアオケイに目を向ける。

「どうだい、兄さん。今日の決勝はなにが来るかい」

 今度こそ、私だ。こういう時にどう切り込むかは難しいので、ひとまず当たり障りのないところを突く。

「やはり、力からいえば脇本でしょうか」

「7番かい、こいつは若いなぁ。それにそんなに強くないよ、こんなの」

「そうですかねぇ」

「今日は8月19日だから、枠の6-1,6でどうだい。私は占い師でねぇ、でも競輪は難しい。一人じゃ決まらないから占いで読めないんだ。裏裏裏ばっかだよ」

 占い師だけに裏ばかり、なかなか面白い爺さんだと笑うと、「なにが可笑しいんだい」と不機嫌な声を出す。すると、今度は景品抽選カードの番号でこの出目はどうだろうと言い出した。冗談ではなく、冗談のように生きる人は面白い。

「兄さん、競輪は好きかい」

「ええ、面白いものですね」

 答えはなく、仙人様は少しだけ目を細めると、またとりとめのない思い付きを話始めた。

 このいわき平輪場は、全国でも屈指の設備を備えている。中空上にバンクを設け、その内側から客が登っていくその構造、そしてスタンド設備の明るさと綺麗さ。今日は、5日制特別競輪・オールスターの最終日。第1競走前というに、さすがにそこそこの混雑だ。そしていわきといえばハワイアンズ、というわけで今開催はアロハをコンセプトの場内・イベント構成である。場内には若い子連れ・仲間連れの姿も多い。

 さて、ここ1年ほどのS級競輪戦線において、「ナショナルチーム」をどう扱うかは大きな問題であり続けてきた。そもそも、ドリームシーカー含め競技組の彼らはほとんど競輪に出てこない。ふだんは修善寺で競技のための練習に専念し、国際大会の合間を縫ってスポットで出場する。それはそれで構わない。だが、脇本雄太(S級1班、福井94期)は、明らかに競技向けの練習で競輪のパフォーマンスを落としていた。本人も「競輪の自転車には乗っていない」とのコメントをよく出していたが、以前の長距離砲ぶりが鳴りを潜め、トップの加速が伸びた分だけ航続距離はがくんと落ちた。本人もそれを自覚していたからこそのコメントであり、ろくに立ち回れなかった、昨年の親王牌などは象徴的であったように思う。

 それが、ようやく形になってきたのがこの春から。平塚ダービー、宮杯とどちらもトップのかかりはそのまま、踏める距離が戻ってきたからこその好成績である。そして、地元・福井の記念を制して、脇本はこのいわき平へ乗り込んできた。3日目の二次予選・4日目の準決勝と、最終周回を前半10秒台で回ってバテることなくまとめる。競馬でも競輪でも、最も強く隙がないのは速い逃げだと私は信じているが、それを体現するような強さだ。さて、今日はどうだろう。

 レースを見て、予想をし、車券を買い、時にイベントステージを眺めるなどして、ついに決勝戦を迎える。私は、この2日間ずっと、バンク内三コーナーに陣取っていた。選手が現れ、号砲が鳴る。さて、脇本はどうだろうか。復調といえば、竹内雄作(S級S班、岐阜99期)も、一時はかなり点数を落としていたが、6月の函館記念から強い姿が戻ってきた。脇本と同じ競技組で地元福島の渡邉一成(S級S班、福島88期)だって、ここは期するものがあるだろう。その後ろの中村浩士(S級1班、千葉79期)は、千葉県らしい練習の鬼。個人的には弟子の湯浅大輔(A級2班、千葉96期)の負け戦捲り一発には世話になっている。そういえば、湯浅は前にいわき平のヒラナイターに来た時も走っていたな。準決は恵まれた感があるとはいえ、山崎賢人(S級2班、長崎111期)はもうここに乗っているだけで大したものだ。

 バンク内からの観戦だから、選手がホーム側にいるときは後ろを向き、そのままぐるぐると体を回転させる。それでも、二コーナーあたりからバック全後までは、距離があるのと角度の問題で直接見ることができない。だが、この日のためにピカピカに磨き上げられたバック特観スタンドのガラス面に、ナインカラーの姿が雲を背にしてぼわっと映り、こちらへ迫ってくるのがわかる。選手が目前に来たときは、当然みな大騒ぎで叫ぶのだ。

 赤板周回、先に動いたのは竹内だった。二コーナーで選手の姿が切れると、喧噪さらに高まったようだ。目の前を通過したときは、青い竹内が踏み込み、脇本は少し後ろで浮いているように見えた。それが、普通なら脇本が持たないところ、さらに加速し最終ホームで先頭にたつ。最終バック、見えないが、ガシャンという落車音がした。だれが落ちたんだ?が、目の前を駆け抜けていった橙色のユニフォームは、落車とは無関係に完全に後続をちぎっている。そのまま流れるように最終ゴール線へ、とにかく、強い。

 脇本がそうであるように、自転車競技選手である以上、ワールドカップやオリンピックのような世界で高みを目指し戦いたい、それゆえ競技種目へ、という真摯な思いは至極当然である。だが、自転車それ自体や競技性が異なるゆえに、競輪でのパフォーマンスを落としたように見られてしまうことがままあり、それが一部のファンが反感する光景も私は見てきた。競輪は、何億というカネ、客一人一人が託した命の次に大事なものを背負って走るものである。これが、東京オリンピックやら国家の威信・誇りよりも下である、との考えには私としても賛同いたしかねる。

 だからこそ、競技で一度調子を落としながら、自身を再構築し競輪でも以前より強くなった脇本の例は重要である。現在来日中のマティエス・ブフリ(オランダ)やマシュー・グレーツァー(オーストラリア)にしたって、最初は戸惑いこそあったが競走を重ねるごとに競輪にも適応しているのだから、両立が不可能というわけではないはずだ。決勝後に行われたこの日の表彰式にて、華やかなレイをかけられた脇本にファンは「次は金メダルを頼むぞ」「いや、まずはグランプリだ」と声援を送っていた。このふたつの世界が対立に陥ることなく、折り合いをつけつつ面白い競輪が続いてくれることを期待したい。

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いわき駅にて(2018.8.18)

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(2018.8.18)

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(2018.8.18)

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バンク内に出ていたハワイ風フライドチキン。夏のナイター開催時など、このスペースビアガーデンになる(2018.8.18)

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(2018.8.18)

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(2018.8.19)

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これだけの施設を有しながら、いわき平の泣き所として食事が非常に弱い。フードコートのモンゴル塩ラーメン(2018.8.19)

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いわき駅から二駅で、湯本駅に着く。いわき湯本温泉は「温泉神社」が延喜式に記載があり、道後温泉らと並び本邦有数の歴史を誇る(2016.7.31)