競輪の結果をまとめるところ

レース番号レース種別 半周ラップ(一周ラップ) 1着決まり手 2着決まり手 3着決まり手 J選手着 H選手着 B選手着(上がり) 自分が使うときにまとめる。なんの責任もとりません。

【三場目】奈良競輪場

 早朝に名古屋を発ち、関西本線で奈良へと向かう。大中京圏を通るにしては、車窓はわりあいすぐ鄙びたものへ変わり、しばらくすると亀山駅で乗り換えとなった。少し時間があるので朝食を買おうと駅前に出たが、ロータリーにはマイクロバスが止まり、なにか由緒があるのだろうが、その奥には鳥居などが見える。朝の通勤通学時間であったから、地方都市の駅前にしてはそこそこに人がいて、バスを待って並んでいる。私ですら知っていた液晶ディスプレイの最先端工場があった街にしては、まるで昭和のころからなにも変わらずここまで来たようだ。

 伊勢から伊賀へ、そして伊賀から大和へと、緑の眩しい山間を進む。目指す奈良競輪場の最寄り駅は、近鉄線の平城駅である。ところが、この関西本線を含むJRと近鉄は、ところによっては線路が並んでいるというに、さっぱり接続駅がない。仕方がないので、事前に地図をなめ回し、郡山からなら10分ほどで乗り換えられるだろうと見当をつけた。駅前から真っ直ぐ伸びた道を行くと、両側には和菓子屋巻き寿司屋から傘屋に至るまで、いかにも何代も続いてきたような商店が続く。なんとなく、弾正忠が平蜘蛛抱えて吹っ飛んだ時分にゃご先祖様はこの辺に、というような風情がある。関西というのは、関東住みの人間からするとフクザツである。

 6時台に名古屋を出て、平城駅に着いたのは11時ごろ。改札を出て川を渡り、少し歩くと競輪場が見えてくる。なお、奈良競輪場が奈良競馬場の跡地に建てられたという説明がされることがあるが、競馬場のコースは競輪場と川を挟んだ対岸にあった。現在は田畑となっており、こちら側を通って平城駅から競輪場まで至る事もできる。

 さて、駐車場の方から入場門へ回ると、その門の前にトタン屋根の掘っ立て小屋然としたものがある。これは、ホルモンうどんを出す店である。まったく、どういう理由でこんなところで営業しているのか余所者にはさっぱりわからないが、とにかく事前にも「奈良のホルモンうどんはスゴい」との情報を知人より得ていた。ホルモンうどんといえば向日町が美味いというのが須田鷹雄氏以来の定説だが、「スゴい」のはなるほどこちらだろう。30歳前後の男性二人組が先客でおり、またこの店構えのインパクトはちょっと入るのに勇気がいる。なのでいったん前を素通りし、競輪場の中へと入った。従事員のおばちゃんが二人ばかり立ち、おはようございますの声とともに出走表とラッキーナンバーカードをくれる。入場料は無料であった。

 場内は、全体的に作りの古さは否めない。それでも、清掃は行き届いており、落ち着いた雰囲気は悪くない。民間委託場はどこもそうだが、警備員なども心なしかキビキビとしている。ただ、締め切り音楽はご存じヤマトナデシコ七変化、マスコットキャラクターの飛天ちゃんとの取り合わせはちとちぐはぐではある。ホーム裏にイスを並べた冷暖房完備のシアター型の投票所があり、暑い日だったこともあり客の大半はこちらにいるようだった。サンサンにしては場内自体は広いのだが、内部の食堂は大半が閉鎖されており、奥の方にはシャッター街となっている場所もある。

 この日はS級シリーズの最終日、飛び込み気味でみた2R、その次のA級特選も外し、いったん外に出てさきほどのホルモンうどん屋に戻る。恐る恐るのぞき込むと、ファンキーな髪型をした、なにやら強面の若い者が座っていた。手前には、細かく刻まれたホルモンを煮詰める大鍋が鎮座している。「ホルモンうどん、お願いします」と頼むと、感じのよい返事が返ってきた。まず、足下のクーラーボックスから、冷凍のうどんを取り出し茹でる。続いて、ペットボトルから薄茶色の液体を小鍋に出すと、これを火にかけ温め始めた。なるほど、出汁が煮詰まらないよう、小分けで調理していくのか。数がそれほど捌けないことがあるのだろうが、そこらの立ち食いそばや公営競技場の食堂で食べるものよりはだいぶ手が掛かっている。

 白いプラスチックの容器に出汁とうどんを盛り、大鍋からホルモンをひとすくい、最後に刻みネギを載せる。一味唐辛子はご自由に。なるほど、美味そうだ。場内に戻り、メインスタンドに腰掛けながらうどんをいただく。ホルモンは関東でアカないしフワと呼ぶ肺臓が中心だが、歯ごたえの小気味よいハツなどもいくらか入っていた。一見しておどろおどろしい見た目だが、味つけはあっさり目で噛みしめるとホルモン特有の臭いが分かる。だが、それが澄んだ関西風の出汁に混ざると、トガったところが取れて美味い。滋養をつけるホルモン食というのは、元来こういうものであったような気もする。

 今回は、さらに西の方へ向かう旅打ちの途中であったから、A級の負け戦が終わった13時前には競輪場を後にした。それで打ち足りなかったこともあるが、あの立地と店構えといい、その手間のかかったところといい、そして味の独自性といい。どこに旅打ちにいこうかと考えるいう時、奈良のホルモンうどんは時にたまらなく食べたくなる。

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亀山駅前(2016.8.31)

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メインスタンドより(2016.8.31)

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審判室が全国で一番低いところにあるのではなかろうか(2016.8.31)

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湯茶接待は充実(2016.8.31)

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かつては賑わっていただろう放棄された食堂棟(2016.8.31)

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場内の各処に飛天ちゃんが配され、正直浮いているがやる気は感じる(2016.8.31)

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涼しい藤棚(2016.8.31)

台湾の歓び

台湾の歓び

 

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これが奈良競輪場のホルモンうどん(2016.8.31)

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ホルモンうどん屋。右側の空間にはビールケースが並べられ、座って食べることができる(2016.8.31)