競輪の結果をまとめるところ

レース番号レース種別 半周ラップ(一周ラップ) 1着決まり手 2着決まり手 3着決まり手 J選手着 H選手着 B選手着(上がり) 自分が使うときにまとめる。なんの責任もとりません。

【八場目】青森競輪場

 鉄道紀行作家として名高い故・宮脇俊三氏は、文藝春秋社勤務の時分、夜行列車のダイヤとにらめっこしては土日の鉄道旅行の予定を組むのが楽しみであったという。当時は、東京駅や上野駅から、鉄路の続くところあらゆる方へ夜行列車が発車していた時代だった。私が物心ついたころには「ブルートレイン」はほぼ死語同然となっていたし、今ではJRの夜行列車は旅行商品ありきの高級ツアー列車に、季節限定のムーンライトながら、あとは中四国へと向かうサンライズだけである。

 だが、夜のうちにどこかへ行ってしまいたい、という人間がいなくなったわけではない。東京駅や新宿駅のバスターミナルから出ていく長距離夜行バスは、たいがいよく埋まっている。

 金曜日の22時過ぎ、地下街の中華屋で餃子、炒飯をアテにチューハイを飲んだ後、9割方席の埋まった三列独列シートに乗り込む。窓際の席ならば、カーテンの隙間から高速道路の照明が移ろっていく様子が見れるのだが、あいにく今回は中央の席。両サイドはきっちりカーテンが閉められ、前のおばさん、後ろのおっさんどちらともお互い不干渉が礼儀というもの。ひじ掛け脇のコンセントにスマートホンを差し込み、照明の消された車内で煌々と弄った。単調な揺れが続くありきたりな車内の闇に酔い、昨日忘れようとしたどうでもいい後悔が胸を埋めては、できなかったこと、言うべきではなかったことをひとつふたつと数え、時間の輪郭をぼやけさせる。ふとGPSを確認すれば、もう宇都宮を過ぎたあたり。

 それでも、どうせ酒に沈み小汚い寝床で朝を迎えるならば、どこかへと動いているだけ前向きでしょう。

 日付が変わって1時ごろ、ようやく宮城県を出ようというところで、乗務員が交代する。みちのくを北へ北へ走り、花輪インターでの休憩を挟んで、定刻通りの朝8時に、遠く青森駅へと到着した。

 青森でやることは決まっている。朝からやっている温泉銭湯に入り、煮干しの香るラーメンを喰う。三割程度のシャッター街である駅前の商店街はまだ街並みを保っており、散歩するのもそれなりに楽しい。魚屋、八百屋などは観光客相手の商売も貪欲で、朝から冷やかすこともできる。一通りルーチン・ワークをこなしたら、駅前から青森競輪場行きの送迎バスに乗り込もう。本日は開設69周年開設記念、3日目準決勝の開催日だ。

 青森競輪場は市街地からかなり離れた山中にあり、青森駅からの送迎バスで20分以上を要する。現在の競輪場に移転する前は陸奥湾に面した合浦公園にあったというから、往年の「ギャンブル公害」論と広い駐車場など土地を求めての移転だったのだろうか。客の大半は自家用車で来場するのだろう、送迎バスも輸送の密度は薄い。それはよいとして、復路の方が設定本数が少ないのはどういう理屈なのだろうか。復路のバスは、案内所で事前に整理券を受け取る形式。これを取り忘れると、タクシーを使用する以外帰る手段がないという羽目になりかねない。勝ってのお大尽ならまあよいのだけれど。

 さて、もうひとつ運営方面について述べておくと、青森競輪場といえば、全国で唯一厳格な写真撮影禁止ルールが布かれていた。他場も、トラブル防止のためほかの客は写すなだとか、選手の肖像権管理の問題から競走中の撮影はいかんだとか――いわき平はこれ――それぞれやってよいこと悪いことに微妙な違いがあるのだが、完全禁止は全国43場中青森だけ。この種の規制は現場レベルでは空文化しているかと思いきや、ここは場内でスマートホンをちょっと横に構えようものならすぐ警備員が飛んでくる、というガチガチの運用に辟易した記憶がある。

 ところが、場内に入場してみると、以前掲げられていた「写真撮影禁止」の掲示がなくなっている。券売機前にいた警備員に尋ねてみると、勤務し始めて日が浅いのか「よくわからないので、聞いてきます」と少し離れたところにいた上司を呼んできた。この責任者氏、青森競輪場の業務を受託している、公営競技界では名を知られた会社名を胸につけている。曰く、「ええ、写真撮影は、今は大丈夫ですよ」とのこと。ルールが変更になった細かな経緯は聞けなかったが、旅打ち派としてこれはうれしい。場内にはwifiが導入されているなど、環境整備もこつこつと進んでいるようだ。

 記念競輪も3日目、大きめに張り込みたい。2R、巴直也(S級2班、神奈川101期)を使った稲村好将(S級2班、群馬81期)が1着、2着に地元の開坂秀明(S級2班、79期)が来て筋違い。5R、逃げる隅田洋介(S級2班、栃木107期)以下の関東ライン、最終バック前から捲った酒井拳蔵(S級2班、大阪109期)ら西日本ラインを、点数抜ける地元坂本周作(S級2班、青森105期)が直線突き抜けアタマ。だが、番手の佐藤朋也(S級2班、秋田89期)はついていったが3着までだ。場内から「根性なし」とのヤジが飛ぶ。かわいそうなことである。

 昼飯にスタンド内にある煮干しの濃いラーメンをいただき、さて7R。「なんでもやる」宣言の小埜正義(S級2班、千葉88期)と福島ライン連携が人気。小埜はジャン前高久保雄介(S級1班、京都100期)の番手を狙い三谷将太(S級1班、奈良92期)と競るも脚の浪費で終わり、直線大外を伸びた牧剛央(S級2班、大分80期)が1着。後ろは近畿勢がそのまま流れ込み、3連単87,370円の高配当。8Rでは、不調の武田豊樹(S級S班、茨城88期)が海老根恵太(S級1班、千葉86期)になすすべなくつぶされたが、海老根も前の桐山敬太郎(S級1班、神奈川88期)に離れてしまう。ここも、三連単が10万円を超える筋違いの決着だ。

 準決勝前、最後の負け戦となる9Rは、競走得点からして小川真太郎(S級1班、徳島107期)が抜けている。連携の同県堤洋(S級1班、徳島75期)も盤石で、別線の自力・マーク屋はみな今節調子が悪い。それでいてこのライン折り返しで2倍以上つけるのはじつに甘い。ここだな。ふだんの1レースに賭ける3倍ほどの額を、このライン決着に投じた。

 果たして、ジャンから前に出た小川はペースを緩めつつ、最終ホームで余裕の発進。庄子信弘(S級2班、84期)も出ていたが合わせられる格好となり不発、そもそものスピードからして違った。そのままほぼ1本棒で最終バック、直線へ。堤も最後迫ったが小川が押し切り1着、3着にも戸田洋平(S級2班、岡山92期)が入る見事なラインでの決着となった。この二車単で360円なら良すぎるくらい。だいたい高速バス代くらいは回収できたかな、と頭の中で勘定が働く。遠く青森までやってきて、車券を当ててはちまちま計算する。さもしい話だ。いっそ外れればよかったな。

 そんなどうでもよい思考を中断させたのは、後ろの席で寝っ転がってウチワを仰いでいた爺さまだった。起き上がるや、白シャツ一枚脱ぎ上半身裸になったのだ。おお、こりゃ青森は開放的だな。とはいえ、記念開催だから周囲には子連れの夫婦などもそこそこいる。すると、30前後だろう小太りの警備員がそっと爺さまに近づき、両手をあわせなにかを頼んだ。いや、「裸は勘弁してくれ」というような意味だったのだろうけれど、私の頭の中で音と意味が一致しない。年配の方が話す青森の言葉は難解であるが、音の繋がりに不思議なリズムのよさがある。

 相手にあわせているのだろう、警備員氏との会話は愉快だ。別に文句をいうわけでもなく、爺さまは白シャツに袖を通した。痩せ型で無駄な肉のない顔からの、ぼそっとした口の動きとは、まるで印象が違う軽やかな音が「すまなかった」といったのだろうな。仕事熱心な警備員氏は、満面の笑みを爺さまに向け、おそらくは「ありがとう」というような意味を跳ねさせた。

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東京駅八重洲南口バスターミナルやバスタ新宿の「どこへでも行ける」感はよい(2019.9.6)

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青森市内には温泉の銭湯が多い。新青森駅から徒歩15分ほどのあさひ温泉は、そこらのスーパー銭湯なみの浴槽を備える(2019.9.7)

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青森駅至近ならば、青森まちなかおんせん。ホテルの大浴場を銭湯価格で解放してくれる(2018.4.21)

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青森駅前の商店街にあるくどうラーメンは、早朝からやっている伝統の煮干し味(2018.4.21)

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敷地内でも、入場前はまだ撮影オーケーだった(2018.4.21)

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(2019.9.7)

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記念開催日のみ、五所川原便など遠方まで運行するので、気になる人は乗ってみるのもよいかもしれない(2019.9.7)

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往年の写真撮影禁止の掲示。飲酒や競走への妨害と同列というのもすごい話。実際はこそこそ隠れて場内をいくつか撮ったが、さすがにアップは憚られる(2018.4.21)

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でもさすがに壁ならいいだろ……青森競輪場の選手宿舎は温泉になっており、非開催日は一般解放される。さすがに、開催してないのに遠征するのはハードルが高い(2018.4.21)

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場内の食堂のラーメンライスも、ちゃんと煮干しラーメンなあたり青森県はすごい(2018.4.22)

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(2019.9.7)