競輪の結果をまとめるところ

レース番号レース種別 半周ラップ(一周ラップ) 1着決まり手 2着決まり手 3着決まり手 J選手着 H選手着 B選手着(上がり) 自分が使うときにまとめる。なんの責任もとりません。

【十二場目】豊橋競輪場

  名古屋行きの夜行バスを、早朝5時に豊橋駅で途中下車した。ネットカフェで仮眠を取り、朝9時そこそこに駅前から愉快な路面電車に乗る。競輪場前駅で降りたが、ここから豊橋競輪場の入り口へは、さらに5分ほど歩かねばならない。

 駅からまっすぐ行くと見えてくる南門入場口には、警備員氏がおひとり。視線があうと、目礼などして

「おはようございます!」

と声をかけてきた。こりゃ、ずいぶんと礼儀正しい。だが、時間はまだ9時40分過ぎ。開門の10時には早いはずで、

「おはようございます、もう開門していますか?」

と聞くと、警備員氏びっくりして

「お客さんでしたか、これは失礼。開門は10時からで、まだ入れません」

との答え。職場からスーツ姿のまま夜行バスに乗り込んでいた私を、なにか関係者と間違えたのだろう。そのまま入っていたら大変だったな。お互い同じような苦笑いをして、南門を通り過ぎ、競輪場の横を流れる川で時間を潰した。

 警備員以外にも、競輪場の中には随分といろいろな仕事がある。一番の花形は当然ながら選手たちだが、競走を成立させるための業務を担うJKAの検車員、審判委員や発走委員、番組編成委員。豊橋の場合は市営競輪だから、豊橋市役所勤めから競輪場に配属となった方もいるのだろう。トータリゼーターや映像機器については、専門の技術者も必要だ。実況アナウンサーなどは、競技場の顔になることもあるくらい。

 あとは、なんといっても発売所関係。自動発払機が導入され、入場者数もこの斜陽では往時と比べるべくもないが、穴場の向こう側では今でも多くの人たちが働いている。この発売所業務の従事者は、競技によってはかつて強固な労働組合組織を築き、待遇改善を掲げスト闘争を行ったという。

 なくなってしまった仕事もある。行列回避のための私設両替・払戻屋は、ほとんどの公営競技場から姿を消した。同じく、公認のお立ち台・予想屋稼業も大変だ。消えてよかった方では、ノミ屋・コーチ屋のような存在も、かつては場内に跋扈していた。

 10時を回り、今度はきちんと正門から、入場料を払って競輪場内へ入場する。流れているジ・アルフィーみたいな音楽は、競輪場のテーマソングだろうか。朝一番の場内は、綺麗に清掃されていた。

 豊橋は特観席が安い。500円で上階の指定席が取れ、ソフトドリンクの飲み放題がつく。ゴール前の席を取り、特観席内を回っていると、穴場の脇にちょっと感じの違う機械が置かれていた。「七転八起」「心機一転」「一発逆転」といった文字があしらわれたそれは、外れ車券抽選機なるものらしい。哀しくも的中ならなかった車券を入れると抽選が始まり、うまくすれば選手のサイン入り競輪グッズやクオカードがもらえる、という趣向だ。

 これは、なかなかの知恵ではないか。公営競技場の地面といえば、踏みしめられた外れ券。近くのごみ箱に捨てる手間を無精し、そこらに放り投げて済ませる流儀は、食堂などのノスタルジアと表裏一体で競輪場内を生き延びてきた。結果、だれかが箒とゴミ袋を持って、性懲りもなく外れた車券を拾いに、延々と場内を巡り続ける。

 これについて、「そのおかげで清掃の雇用が生まれ、誰かが仕事にありつけているんだ」と主張する人がある。発想はおもしろいが、タチの悪い客が、清掃係が地面を掃いている、そのすぐ横で車券を捨てる。見ていて気持ちがいいものではない。

 いまさら「外れ車券はお近くのごみ箱にお捨てください」と真面目腐った放送を流したところで、結果は知れている。だが、この抽選機を設置すれば、スケベな客たちのこと、利用率はそれなりのものになるだろう。他人が放り投げた車券を、拾って入れる欲深さには万々歳だ。本場に来てもネット経由で投票する人――主催者からすれば、業者に支払う手数料分を損する――が、紙車券を買う誘導にもなる。

 さっそく、近藤悠人(A級3班、鹿児島93期)から裏喰って外した、1レース分の車券を抽選機に入れる。液晶画面の中でルーレットが回り、残念ながら目は揃わず。そうそう、的中がでるような設定でもないか。

 さて、遅めの朝食を取ろうと、特観席から下に降りて売店のひとつを覗く。メニューにおにぎりの文字があるが、ドテ煮、おでんらを並べた卓上には見当たらない。店主のおばちゃんに尋ねる。

「すいません、おにぎりはありますか?」

「あんよ、鮭でいい?」

別に嫌いでもないから、そのまま鮭をお願いする。するとおばちゃんは

「あい、今握かっらちょっとまってな」

と、手近に置いた炊飯機を開けるや熱い米飯をすくい、きゅっきゅっきゅと巧い手つきでやりだした。私は一瞬呆気にとられるが、これも、競輪場の中にある、当たり前の生業なのだろう。

 完成した握り飯はのりを巻かれ、いっしょに頼んだ焼き鳥とともに、白い発泡スチロールトレイの上へ。

 スタンドの席で食べたおばちゃんの握りたては、ほおばると米粒同士が柔らかにほぐれ、具の鮭フレークがこぼれる。ご飯を粗末にしないよう注意しながら、これを一気に食べ切った。

 ぬくい握り飯を食べたのは、久しぶりだ。

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豊橋は、路面電車のある街だ(2017.10.7)

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(2017.10.7)

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正門入って奥には、レトロ調のホーロー広告。競輪場の古き日の空気はテーマパーク的演出でないことに面白さがあるので、この小道具はいささか軽薄さを感じないでもない(2017.10.7)

f:id:glay222:20171007104057j:plain特観席より(2017.10.7)

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はずれ車券抽選機は、中部地区の他場でも見かけた。地域文化なのかもしれない(2017.10.7)

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特観席には、ほかにもユーフォ―キャッチャーがあったりした(2017.10.7)

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(2017.10.7)

 

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どういうわけか、場内の飲食店では焼き鳥が推されていた。公営競技焼き鳥会の横綱・盛岡水沢競馬のジャンボ焼き鳥には及ばないが、外れのない美味しさ(2017.10.7)

f:id:glay222:20171007122945j:plainよくいえばやさしい味のラーメン。かまぼこなどがうどんと共用なところがまた曖昧さがありよい(2017.10.7)