競輪の結果をまとめるところ

レース番号レース種別 半周ラップ(一周ラップ) 1着決まり手 2着決まり手 3着決まり手 J選手着 H選手着 B選手着(上がり) 自分が使うときにまとめる。なんの責任もとりません。

【番外】ミミズがのたくっても、ネズミの競争でも賭ける人ーーーーPIST6考

 あれはまだ私が学部生のころだから、10年と少しは前のことになる。浪人生時代から花月園ホームという一回りは年上の知人と大井競馬に行った帰り、蒲田か大井町だかの中華屋で炊飯ジャーから盛られた炒飯をつまみに酒を飲んだとき、いや、それとは別で、野毛で梯子酒をしたときだったか。ともかくも、賭博の大いなる先達から出たあの言葉は、今でも印象に残っている。

 

「俺みたいな、なんでもいい、ミミズがのたくっても、ネズミの競争でも賭けるやつはともかくさ。公営競技なんてもう終わりでしょ。若い奴らはやんないもんな」

 

 当時、たんに大学から定期券内で3駅だったというだけで私が普段使いしていた、今は亡き後楽園ビル地上1階のofft後楽園。平日昼間からニビ色のジャンパーにタバコと酒のおっさんじいさんがあれだけ集結していた一方、同年代を見かけるのはほとんどなく。バブル崩壊後の売上の低迷、競輪・地方競馬で生じた相次ぐ閉鎖。「新たなファン層開拓獲失敗」「既存顧客の高齢化と退場」による参加客数の縮小は、00年代から10年代初頭当時の公営競技界において、巨人・中央競馬すら頭を悩ませる共通の大問題認識だった。

 

 このままでは未来はない。競輪においても、90年代末からヒラ開催の赤字化による地盤沈下が著しく、借り上げ主催者の撤退、選手会は訴訟まで持ち込んだが門司、甲子園、西宮が早々に閉鎖。そして業界最大の看板商品のはずが、開催経費もかさむ特別競輪の収益性も次第に悪化し、その象徴として宮杯を擁したびわこが2010年度限りで撤退した。当時、宮杯それ自体は黒字だったものの、その他の開催の赤字を含めた年間トータルの損益分岐点として大津市長が事前に示した110億円の売得金に、わずか3億円達しなかった結果だった。

 この現状の打破を掲げる改革運動が、おおよそ10年毎に生まれてきた。2002年度からのKPK制廃止と一連の選手級班・番組制度改革、選手総数の調整。2013年の年末に吹きあがったSS11独立騒動。そして2021年秋に始まったのが、この250keirin・千葉PIST6である。

 

 快適なドームバンク、キラキラしたミラーボールにレーザー光線、吹き上がるファイヤーにキレよく踊る女性ダンサーたち。競走中の実況はDJブースからノリノリでーーありゃ、選手を見間違えるのは勘弁してあげようーー、客はハリセンを叩いて選手を応援する。マコトにケッコー、この令和の時代に新築するんだから、こういう競輪場がひとつくらいはあってもよい。

 一方で、この新しい試みには、客がいない。まずは、運営上既存の競輪と違うことが第一に優先される。現代競輪の特色である「ライン」がない、「個人のスピード対決」という点がやたらと強調されてきたし、他であれば「1番人気」というところを、いちいち「注目度ランキング1位」などと言い換える始末。まったく、第二次大戦中の敵性外国語排除かと吹き出しそうになった。誰か1人くらい「そりゃ、さすがにアホらしいですよ」と止めるやつはいなかったのか?賭博の色を抑えて、今まで敬遠していた周辺住民、家族連れを呼び込みたいという狙いはわかるけれど。

  思うに、これには業界内部の人間による「競輪はこういうところがダメだから、若い、新しい客が来ないんだ」という発想が、動機として通底している。だが、競輪を知らないカタギ相手に「今度のPIST6は、ラインがなくなりました!」「国際競技大会と同規格の250mバンクです!」とアプローチしたところで、「お、ラインがないのか、世界規格なのか。じゃあやってみよう」となるだろうか?そもそも興味がないのが出発点なのだから、 so what?でしかない。それは、新規集客上の魅力的な要素にはなり得ない。

 

 それでは、スポーツ観戦体験としてはどうか。250mバンクを時速70km以上で駆ける自転車の迫力は、それなりのものがある。ただ、例えば野球でとにかく遠くにぶっ飛ばすホームランが楽しいだとか、テニスで高速ラリーを左右に打ち合う展開からのフィニッシュに興奮するだとか、これはスポーツ観戦の極めて原初的な魅力である一方、ずば抜けた卓越性が求められる。では、PIST6が宣伝どおりに「世界スピード」で走っているかというと、なんのことはない。S級中位からA級下位選手までの寄せ集めであるのが現状だ。一応、A級3班は若い競技経験者などが多くエントリーしているようだが、そこらのヒラ開催やS級シリーズと中身は大差ない。

 また、レーサーのギア音や風切り音が、場内の音楽でかき消されているのも個人的にはどうかと思う。あれなら、大宮あたりで金網越しにかぶりついていた方が満足できる。

 まあ、なにもトップ級を見るだけがスポーツ観戦の楽しみではない。たとえ弱くとも、なじみ、ひいきの選手やチームを応援するという方がむしろ多数派だろう。現場では、選手の出身地や競輪選手になったきっかけなどを流し「お気に入り選手を応援しましょう!」とやっている。しかし、1人や2人なら顔や同郷などで応援買いすることはあれど、まったく見知らぬ状態から、30分ごとに走る選手が入れ替わる1セッション6競走を凌ぐのは厳しい。現状ではあくまで個人競技に寄せているので、チーム単位へのファン固定誘導もできない。これについては、ラインとは別の概念として「練習グループ」のような単位で色分け・広報すれば、まだやりようもあるように思うのだが。

 

 そんなわけで、悪いところばかり見えてしまうPIST6だが、まだ始まったばかりであり。スポーツ興行しては、未だスタートライン上と言えなくもない。こつこつと魅力を発信していくしかなく、netkeirinに掲載されたPIST6社長のインタビューによると、地元千葉市民向けから「手薄になっていた」集客策を展開していくとのことだ。となると目下の問題は、賭博としての売上低迷だろう。いや、入場料とJPFの持ち出し――実質、他場の競輪事業収益からの業務受託費――で継続できるというのならば、別に語ることもないのだが。。。そうそう、いい加減オープニングとダンスが変わらなくて飽きたんですが。「エンターテイメント」としてどうなんですか。

 売上は、還元狙いの元返しブチこみを除けば、1日当たり1,000万円前後で推移している。公営競技の売上としては、往年の観音寺や佐世保のヒラ開催、益田競馬場を超える断トツの低さである。そして、PIST6の賭博性というと、その象徴として並びの取り扱いについて触れなければならない。開幕直後、備忘目的でまとめた記事では、当初は並びが締め切り後発走直後の抽選となっていたことを踏まえ、敢えてこのような書き方をした。

 また、単純な算数の問題として、ある選手Aが特定の選手Bの後ろとなる並びは、120分の24、20%の確率で発生する。連勝系の車券を検討する上では、従来の競輪では地区別ラインを念頭に予想するのと同様に、この数字を踏まえてオッズを吟味することになりそうだ。

 では、実際にそんな買い方をするかというと、まあ難しい。3連単をメインで買われる方など、ヒモが絞れないったらありゃせず。まともに的中を目指すと、マルチ流しで拾いに行くような羽目になる。投票が分散するので連勝系の平均オッズは高くなるだろうし、文献に見るかのガラ馬券よろしく、競走それ自体の前段階で抽選が入るのは、射幸心のポイントとしては面白いが……しかし、だからこその個人戦プッシュ、単勝車券の復活なのだろうと考えていた。

 また、この時点では「並びの直前抽選」という制度は、当分変更しないだろうと想定した。国際ルール準拠ということもあるし、なによりも事前に並びが提示され相談する時間ができれば、選手は必ず連携する。だいたい、ロードレースの分業体制を見てみるとよい。ラインとは、理由なく、先輩にドヤされたり殴られたりするから連携しているわけではなく、自転車競技においては相応の合理性を有している。暴走先行を除けば、より上の着順を目指す敢闘精神の範疇であり、規制できるはずもない。

 ところが、客が「どう買えばいいかわからない」だけでなく、選手側からも競走の組み立てが難しい、との声があがったのかもしれない。なんとこの翌週から、早々に並びの事前抽選・公開へとルールが変更された。

 確かに、事前に並んでいる順でしがみつくマーク屋について、補助線が効いてある程度買いやすくなる効果はあった。だが、PIST6を継続して観ている皆様ならご承知と思うが、九州勢の一部のように、同乗した際には早々に連携して競走を組み立てる選手が現れている。差しや捲りが決まりにくいので1車分セーフティの価値は大きいし、急な外偏でのブロックは失格対象だが、もともとの進路を外々で走る分にはセーフである。タイミングを合わせて外に振っていた場合すら、抜きにかかる動きと認定されれば正常な進路の範疇とされることも多い。あのカントで外三車目から抜いていくのは相当きついので不発を誘発でき、前を援護すると決めれば後ろができることは案外多い。

 ただ、番組段階でラインが前提となっている既存の競輪と異なり、PIST6はあくまで個人戦であり、同地区同士で連携するかどうかは蓋を開けてみなければわからない。6番手に逃げ屋が入ったから、同県のマーク屋が早々に位置を下げて連携、またはイン切りで前々ドッキング、、、と想定すると、まったく動かなかったり、なぜか点数上位の他地区自力屋が悠々と大名マークしたりする。一方で、同地区の上位自力同士で踏みあいかと思いきやとっとと折り合う場合もあり、予想材料として連携の有無がファジーな環境である。

 そんなレースばかりじゃない、強い選手同士の自力でそのまま決まることの方が多いって?それこそ、そんな競走で低いオッズ拾うのに、あの売上でどうしろというんだ。

 

 さすがにこの売上には、運営側も危機感を持っていると見える。来週の開催から1ヶ月間、TIPSTARでは日付限定の上で5万円以上のチャージで3%還元、かつPIST6の二連単・3連単での投票は、全て10%バックとなるらしい。一方で、単勝とワイドは1競走当たりの購入金額をあわせて5万円未満に制限しており、儲けが出ないポイント還元狙いのぶち込みを避けつつ、連勝系へと投票を誘導している。運営の意図はわかるが、私は賭博にはそれなりに根拠と納得をもって臨みたいタイプの人間なので、現状の環境で連勝系を買うことはないだろう。売上面でどういう動きになるのかは、注視したいところであるけれど。

 

 さて、こんな素人が考えることなど、関係者諸兄は当然承知至極のことと思うが。長々と、原稿用紙で十枚分以上もつづってしまった。千葉競輪場は私にとって人生で初めて訪れた競輪場であり、あの場所にはそれなりに思い入れがある。厳しい環境であるが、なんとかあそこで自転車が走り続けてほしい。

 売上面での苦境については、関係団体内での不和、とりわけkeirin.jp公式やTIPSTAR以外の民間ポータルサイトでの発売がない点について、改善を求める声も多い。ひとまず発売を見合わせた各サイトは、既存システムの改修時に発売機能を盛り込むか検討することになるのだろう。現状の売上で民間サイトがカネを投じてくれるかは極めて怪しいが、(公社)全国競輪施行者協議会が運営するサイクルテレホン事務センターー公式に設立年月日がある一方、法人番号検索に引っかからないが人格なき社団なのか?ーーが主体となっているkeirin.jp公式については、全競輪主催者の公平性の観点から、機器更新などの定期改修時に抱き合わせで対応する目は十分あると見ている。

 もっとも「発売チャンネルを拡大すれば状況は好転する」というこの議論のベースには、この十年間に起きた競輪を取り巻く環境の変化がある。2011年に始まったミッドナイト競輪の成功は、他種競技ファン層からの流入という従来も一定数いた傾向を一層強めた。彼らは、あの憎きラインやブロックをものともしない。個人の観測範囲では、もともとナイター競走に慣れていた競艇地方競馬の投票層で、最後に競輪をあわせて楽しむ人間がだいぶ増えたようだ。S級選手による競走は1度企画されたが、売上に大差がなかったため続かず。開催経費の安いA級選手やガールズ選手による開催で、近年はS級シリーズなみの売上を得るに至った。

 規制によるパチンコ・パチスロの衰退とコロナ環境下でのインターネット投票伸長もあり、以前は赤字のお荷物だった昼間ヒラ開催の売上も相当の改善を見せている。公営競技全体の売上も、バブリーに右肩上がりの状況だ。競艇に至っては中央競馬を射程に捉えており、地方競馬も令和2年度は戦後黎明期以来初めて競輪を追い抜いた。流れの中でPIST6だけが沈み込んでいるのは確かに異様で、その原因を発売チャンネルの不足を求めるのは一理ある。

 

 思えば、PIST6開幕当初、一部ネット上で評判の悪かった強面の警備員氏たち。あれは、旧千葉競輪場に来ていた一部の筋悪客が来場した場合、当然起こりうるトラブルを想定してのものだったはず。実際は、その手の客は建て替え工事中に亡くなったか、いまさらながら競艇か競馬、オートレースに鞍替えしたか。または、2,000円からのスポーツ観戦料を馬鹿らしいと思ったのか。現場にはほとんど見当たらない。

 

 それでも、「排除する必要がある」と身構えていた程度には、PIST6運営は考えていたのだ。あの、ミミズがのたくっても、ネズミの競争でも賭けるような客らは、PIST6にもやってくるものなのだろうと。

 

 賭博を商品として売るにあたって、どのような客を想定するのか。「なんでもいい客」は、本当に「なんでもよかった」のか。そして、いったい、彼らはいつまでいてくれるのか。

 確かに、未来は誰にもわからない。

 

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エントランス。概念としての自転車を壊してみました的な謎オブジェがある。入場時は、顔写真を撮られるのもなかなか。(2021.11.27)

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ファイヤーはけっこう熱い。いかにも地元招待枠出来ていただろう、親子連れの男の子が結構興奮していたのはよかった(2021.11.27)

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バンク内側、ラウンジより。(2021.11.27)

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場内に車券売り場はないが、TIPSTAR BARにはオッズ表示がある(2021.11.27)

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あのハリセンの正式名称(2021.11.27)

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フードメニューは、かなり頑張っていると思う。アルコールも濃いめ。(2021.11.27)

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フィッシュアンドチップス(2021.11.27)

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エントランスからは、解体中の旧千葉競輪場スタンドが見えました(2021.11.27)