競輪の結果をまとめるところ

レース番号レース種別 半周ラップ(一周ラップ) 1着決まり手 2着決まり手 3着決まり手 J選手着 H選手着 B選手着(上がり) 自分が使うときにまとめる。なんの責任もとりません。

青森競輪場 トラスト配送カップ FⅡ

●初日
1R Aチ予選 16.1-16.1-13.0-12.4(32.2-25.4=57.6) 差 差 先 3 3 3(12.5)
2R Aチ予選 16.9-14.9-13.7-12.0(31.8-25.7=57.5) 捲 逃 追 2 2 2(12.5)
3R Aチ予選 17.6-14.1-12.1-12.5(31.7-24.6=56.3) 差 先 流 6 2 2(12.5)
4R Aチ予選 16.1-14.8-12.9-12.1(30.9-25.0=55.9) 捲 逃 追 2 2 2(13.0)
5R Aチ予選 16.4-15.6-11.5-12.3(32.0-23.8=55.8) 逃 マ 先 3 1 1(12.3)
8R A級特予 15.7-13.2-14.1-13.0(28.9-27.1=56.0) 追 箱 追 5 4 4(13.1)
9R A級特予 14.7-13.3-12.2-12.6(28.0-24.8=52.8) 先 マ マ 9 9 9(13.9)
10R A級特予 14.3-14.4-12.3-12.0(27.7-24.3=52.0) 先 乗 追 9 9 1(12.0)
11R A級特予 14.5-13.5-12.4-12.6(28.0-25.0=53.0) 差 差 差 4 4 4(12.8)
12R A級初特 14.6-14.1-11.7-12.2(28.7-23.9=52.6) 先 先 追 6 6 1(12.2)

●二日目
1R Aチ一般 18.3-15.2-12.6-12.9(33.5-25.5=59.0) 逃 抜 箱 / 1 1(12.9)
2R Aチ一般 18.0-16.7-12.4-12.1(34.7-24.5=59.2) 捲 乗 流 6 6 6(12.6)
3R Aチ準決 17.8-15.0-11.9-12.6(32.8-24.5=57.3) 差 先 流 4 2 2(12.7)
4R Aチ準決 16.2-16.5-13.2-12.1(32.7-25.3=58.0) 捲 逃 流 2 2 2(12.2)
5R Aチ準決 14.4-14.5-13.3-12.3(28.9-25.6=54.5) 差 捲 追 6 6 2(12.3)
8R A級特般 16.0-14.0-12.4-12.9(30.0-25.3=55.3) 捲 追 乗 9 4 4(13.0)
9R A級特般 16.7-15.0-13.1-12.3(31.7-25.4=57.1) 追 追 追 9 9 9(13.3)
10R A級準決 15.7-13.2-12.1-12.1(28.9-24.2=53.1) 捲 乗 乗 9 9 9(12.7)
11R A級準決 14.9-11.8-12.1-12.4(26.7-24.5=51.2) 差 逃 マリ 3 2 2(12.5)
12R A級準決 13.9-12.5-12.5-12.2(26.4-24.7=51.1) 捲 乗 流 9 9 9(13.4)

宇都宮競輪場 栃木放送杯 FⅡ

●初日
1R Aチ予選 21.3-15.8-15.4(21.3-31.2=52.5) 逃 追 失 1 1 1(15.4)
2R Aチ予選 19.9-15.6-15.7(19.9-31.3=51.2) 差 差 追 3 5 5(15.9)
3R Aチ予選 20.9-15.7-15.5(20.9-31.2=52.1) 先 マ マ 5 1 1(15.5)
4R Aチ予選 19.4-15.6-15.0(19.4-30.6=50.0) 逃 抜 箱 7 1 1(15.0)
5R Aチ予選 22.8-16.8-14.2(22.8-31.0=53.8) 差 捲 乗 2 5 5(15.0)
8R A級特予 19.6-16.6-15.3(19.6-31.9=51.5) 逃 マ マ 8 1 1(15.3)
9R A級特予 18.9-14.2-15.1(18.9-29.3=48.2) 差 追 先 8 6 3(15.2)
10R A級特予 18.9-15.7-15.4(18.9-31.2=50.0) 追 追 追 3 7 7(15.6)
11R A級特予 20.6-16.8-14.3(20.6-31.1=51.7) 逃 捲 追 1 - 1(14.3)
12R A級初特 19.5-14.2-14.8(19.5-29.0=48.5) 捲 乗 箱 7 7 7(15.1)

【九場目】武雄競輪場

「この『自力で頑張る』ってコメント、これだけ?ウケるわ、どういう意味だよ」

 競輪場は初めての、職場の先輩がわたしの専門紙をのぞき込んで笑う。さて、競輪を楽しんでもらえるかどうかは、ここの導入が肝心だ。

「競輪はやったことがなくても、『ライン』があるというくらいは聞いたことがあるでしょう」

「ああ、レース中、友人関係で助けあったりするんだろ」

「そういうこともないとはいいませんが、そうでないことの方がずっと多いですね。師弟関係は一段重く扱われますが。現代競輪のラインは、地域別のチーム戦なんですよ」

「地域なぁ。そういや地元の知り合いの父親に門司競輪場で競輪選手やっていたのがいたが、じゃあそういう選手は門司や小倉同士で組んでたってことかい」

そう、この人は門司亡きあともメディアドームを擁する北九州市出身――以後、便宜上仮名を小倉氏と称する――である。だがもっぱら馬の方が専門であり、競馬専門紙の調教師や助手の充実したコメント欄に慣れていると、たしかに競輪新聞のコメントは異質だろう。

「同じ練習地ならまず間違いないです、ほら新聞のここに練習場所が書いてあるでしょう。でも、そう都合よくいっしょに乗れることは少ないので、ほかの武雄や佐世保、別府、熊本といった九州地区所属の選手で一体となって戦います。九州だけで戦力が不足していれば、隣接する中国・四国地区の選手とも話をつけて組みますね。東日本の競輪場への遠征だと、広く関西圏まで入れた『西日本ライン』なんてこともあります」

「ラインをどう組むのはわかった。だが、そもそもなんでそこまでしてラインが必要なんだよ」

そう、それが大事なところだ。ノーガキを続けようとすると、後ろから本日もう一人の同行者が戻ってきた。車券を買いにいったはずだが、それとは別に白い発泡スチロールの皿に、茶色い串を載せている。

「エサ、調達してきました」

ピンポン玉大のタコ入り練り物のおでんと、牛筋串である。佐賀県長崎県は畜産も水産業も豊かな県だから、こういうちょっとしたものの美味しさがありがたい。とくに練り物などは、関東で同じ値段で似たようなものを買おうと思えば、澱粉の混ぜ物ばかりの品しか出てこないだろう。そのまま、今度はこちらが説明を始める。

「ラインの話ですか、あれは空気抵抗のせいです。つまり、自分で風をかき分けて進むよりも、その後ろでついていった方がずっと楽だから。なんで、そういう選手を自力と呼んで、ケツにまさに他力の選手がつく。これがラインになります」

これを聞いた小倉氏は、憮然とした表情である。

「じゃあ、自力の選手は自分ばっかりくたびれて損じゃないか」

「そうでもないです。後ろの選手は後ろの選手で、ほかの自力選手が攻めてきたらラインを守る。そのままやられちゃ自分も終わりだから」

私もここで理屈をひとつ。

「単純な距離の話として、後ろの敵がライン分二車進まないと自分に届かないのと、自分のすぐ後ろがもう敵という状況なら、自力選手からすれば前者の方がぜったい心理的に有利です」

「ふーん、それでチーム戦なのか。ラインと聞くと、なんか八百長みたいなイメージしかなかったが」

小倉氏は、一応納得してくれたようだった。現代競輪の「ライン」は、競輪戦後60年の歴史の中で進化してきたしごく合理的なものだ。きちんと説明すれば、拒絶反応を起こす可能性はだいぶ減らすことができる。

「他人の後ろにつくマーク屋は、前の選手の動き次第なところがありますから。競走得点、あ、選手の格を表す数字ですね、これが高くても絶対視は禁物。競輪の予想は、各ラインの自力選手同士の比較から入るのが基本です」

「なるほどなるほど」

よし、だいぶ理解が進んできた。

「ただ、決勝戦のような場合は、後ろの選手を引っ張るだけ引っ張って自分の勝負は度外視、という競走を狙う選手もいます。昨年も、特別競輪、競馬でいうGⅠですね、この決勝で近畿地区の選手がこれをやりましてね。番手の選手が優勝、先行した選手は最下位でしたが、こちらの選手も胴上げされてましたよ」

親王牌の脇本と稲垣だろ、ひどかったよな。でもまあ、客もそれをわかって買っているところあるから。あそこで脇本が駆けなかったら、それはそれでレース後はドーム中から野次ですよ」

と、神奈川出身も大学が群馬だった先輩氏――以後、仮名を群馬氏と称する――が、前橋のネタに乗ってくる。こちらは学生時代に旧高崎競馬場跡地の場外馬券売り場に入り浸り、そのまま前橋で競輪も嗜むに至ったというツワモノだ。が

「…………やっぱりそんなん八百長じゃんか!そんなんでいいの?」

小倉氏は、振出しに戻ってわけがわからないという顔。しまった、これは余計な話だったな。

 

 真夏の暑い時分というに、職場の男3人ばかりで九州を旅行した。どうせなら妙な移動をしてみたいと――オタクにこういうのを一任するとろくなことにならない――、出入りは長崎空港を選択。そのまま島原半島の海岸線を走り、フェリーで熊本へ。そこから佐賀を抜けがけ武雄競輪を冷やかして、ぐるっと回って開催中の大村競艇場至近の長崎空港へ戻ってくる、という旅程である。なお、私も群馬氏もペーパーだったから、運転は最年長も九州出身で土地勘がある小倉氏にお任せ。家族には「仕事で出張だから」と騙り出てきた群馬氏は職場と同じ白のワイシャツに黒パンツという格好で、

「すいません、運転任せちゃったところ申し訳ないんですが」

と謝ってから、空港から早々にストロングゼロを「カマして」いた。お許しがでたので、私も一本、また一本と。せっかくの旅行だからね。

 初日は熊本を回り、宿は佐賀の古湯温泉の民宿へ。ぬる湯で知られるこの温泉地は、佐賀県でもだいぶ内陸に入ったところにある。谷筋の国道を進んでいると、道端にふたつみっつ固まった自動販売機の一群を見て群馬氏が話題を振る。

「そう、最近エロ自販機についての本を読んでね、いやあれは奥深い世界ですよ。北関東なんかだと、まさしくこういう山の道筋にあったりするんです」

ハンドルを握る小倉氏もこの話題については

「エロ自販機、そういや小倉競馬場の裏にあったな。滞在競馬の関係者とかが買ってんかなあれ」

とご当地ネタを提供。

「買う人がいるから補充されて商売になっているんでしょうけど、全国の隅々まで配本網があるってのはすごい話ですねぇ」

「そうなんだよ!なんでも元締めの業者がいるらしくて、インタビューが載ってたんだがこれがな」

 と、その時、カーブの先にまた野ざらし自動販売機群が見え、すれ違った。

「どうだった?」

思わず聞くと、権威となった群馬氏は至極残念そうに

「あー、あれはエロ自販機じゃなかったですね」

 

 とまあ、たいへんアタマの悪そうな会話をしつつ、翌朝には武雄競輪場までやってきた。前述のとおり小倉氏は競輪初体験なので、勢い会話はそのレクチャーということになる。だいたい、ただでさえ運転をお願いしているのだから、ここは群馬氏と二人できちんともてなさなければならない。

 2レース、逃げる久冨武(A級3班、岡山79期)が押し切るも、番手の小野祐作(A級3班、岡山72期)は脚が回らず。三番手を取りにった関博之(A級3班、長崎82期)が、直線交わして2着だった。

「最後の直線で先頭を回ってきた、自力選手のすぐ後ろの位置を『ハコ』と呼びます。自分は基本的に脚を温存できていて、かつ前の自力選手はそこまでで少なからず消耗していますから、古来より競輪でもっとも有利な位置とされてきました。そして、今のように番手で回ってきたのに、差し損ねるだけでなく後ろの選手からも交わされるのが『ハコサン』です。出渋り、外道競りと並び、競輪爺様方が忌み嫌うものですね」

「でも、今日の暑さじゃ外で観ている客はほとんどいないから、野次がなくてよかったな。ひどいところはひどいから」

そういえば、群馬氏とは松戸競輪場のヤジの煩さについて語り合ったこともあったな。

「たしかに今日外で観るのはないわ。しかし、競輪場もきれいなもんなんだね」

 そう、近年改装された武雄競輪場のスタンドは、平屋建てのコンパクトなもの。内装もシンプルだが、座席数はかなり多い。数千の客を捌くよりも、常連の数百人が空調の効いた室内から観戦がしやすいように、という設計がうかがえる。我々も、コース側前面ガラス張りの快適な机付き座席に陣取っている。一部の競馬場や競輪場に慣れていると、これが無料席というのに驚くだろう。

「表にもロゴが出てましたけど、民間投票業者のオッズパークが噛んでるんですよここ。場内整備もだいぶ意見を出したのではないかな」

「へえ、いろいろとあるもんだ」

さて、今日はヒラ開催の二日目なので、次の3レースからはチャレンジの準決勝である。メンバーを眺めると

「お、4レースに玉村元気がいますね」

「なにそいつ、強いの?」

「どちらかといえば面白枠ですね。まあ、見ればわかります」

「しかし、よく選手の名前知っているな」

「競輪選手は全国を飛び回ってますからね、関東の競輪場で何度か走ればなんとなくわかってきますよ」

 果たして4レースの発走台、ファンファーレの流れる中、自転車にまたがった玉村元気(A級3班、福井101期)はいつもどおり両手をぐっと握りしめると、そのまま左手を右に、捻じった体をぐっと戻して、右手を左上に高く掲げる。そこからまた大きく身体を動かして手は͡弧を描き、最後にまた胸前で両手を握ってから、手をハンドルの上に置いた。

「……なにあれ」

ほかの選手も多少のストレッチくらいはするけれども、明らかに一人異質な動きに小倉氏も困惑している。

「なんか、仮面ライダーの動きらしいですよ。玉村のルーチンワークです」

「あいつも、弱いなりにいろいろと考えてるんですよきっと」

と、面白がるというよりは引き気味の反応だったので、群馬氏ともども玉村を擁護する。

 ところが、ここでは玉村元気は道中後ろから追走。最終バック前で捲りに打って出ると、新人の山口龍也(A級3班、長崎111期)を交わして見事1着である。決勝戦進出がよほどうれしかったのか、チャレンジ戦というに入線後ガッツポーズまで決めていた。小倉氏は妙なギャップがツボに入ったのか

「ちょっと、玉村勝っちゃったじゃん!うわすげえな玉村」

とウケていた。よくやってくれた玉村、ありがとう。そして小倉氏が

「で、次はどういうレースになるの」

と聞く。このチャレンジの準決勝最後の5レース、ここは私と群馬氏どちらも一致した見立てだろう。

山崎賢人のアタマは間違いないです」

「ここ優勝したら2班に特昇だろ?ほかの選手だって、いつまでもチャレンジにいられちゃたまらないんよ」

「そんなに強いのかい」

ここは、競輪の格付けの原理から説明すべきだろう。

「競輪選手ってのは7月に新人がデビューするんですが、これはどんな新人もみなこの最下級のチャレンジ戦からのスタートになります。そしてスポーツ選手ですから、若い新人の中には本来即上のクラスで戦える選手が混じっていることもあるんですよ」

群馬氏も

「最近だと、107期の吉田拓矢や新山響平はデビューから1年そこそこで、特別競輪出場まで駆け上がってるな」

と補足してくれる。

「で、この山崎賢人は間違いなく1年後には一線級を戦っている器です。格が違います」

「そうか、じゃあ車券はヒモ探しってことか」

「後ろの茅野寛史が千切れるかどうか、が鍵です」

 ここまでいって、山崎がヘコんだらどうしようか。だが、さすがにここは逆らえない。車券的には、あまりに買うところがないオッズであるが。

 それぞれ車券を買って、競走が始まる。小倉氏も今回は山崎から買ったようだ。青板周回、同じく新人の今岡徹二(A級3班、広島111期)が誘導員を使って山崎をインに閉じ込める。そのまま並走していったが、ジャンで今岡が外から突っ張る構えを見せると、山崎はすんなり車を下げた。打鐘中をたっぷり流した後、今岡はホームから踏み出していく。小倉氏が呟く。

「おいおい、まずいじゃんこれこのままじゃないの」

群馬氏は

「大丈夫ですよ、まだ捲れます」

と泰然としている。まあそうだろうと私も思う。

 そして2コーナーから山崎賢人が捲りを打つ。スピードが違う、さて問題は番手の茅野だが……あー、千切れない。

「ああ、ついてっちゃった」

「よーしよーし、いけいけいいぞ」

私と群馬氏はひねくれているので筋違いから流したが、小倉氏はラインで持っているようだ。山崎は3コーナーでは先頭に出ると、そのまま後続を突き放して1着入線。捲りに乗った茅野が2着、8車身離れた3着には今岡につけていた大森績(A級3班、愛媛59期)が入った。

「これ当たったっしょ、いくらつける?」

小倉氏は的中したようだ。車券を見ると、3連単で6通り持っている。ところが、配当の方はなんと370円。これで1番人気というのは世知辛い。

「ガミですねえ」

「なんだ、安すぎでしょ。じゃあ次だ次、次はガールズ?」

 私はガールズは完全に専門外だ。群馬氏もあまり好きではないらしいが、ここは説明を任せることにする。

「ガールズは、ちょっと男の競輪とは違いましてね……」

 

 あとから考えると、ちと理屈っぽかったなと反省もしたが、ともあれ、小倉氏にはなんだかんだで、旅先で面白おかしく遊んでもらえたようである。

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ネーミングライツを取得したオッズパークのロゴが目立つスタンド外壁(2017.8.20)

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場内はイスがかなり多い(2017.8.20)

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(2017.8.20)

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お値段も安めでよかった(2017.8.20)

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1番車が玉村元気(2017.8.20)

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新しい施設の競輪場にしては、食堂が良心的。小鉢の多さがうれしい(2017.8.20)

【八場目】青森競輪場

 鉄道紀行作家として名高い故・宮脇俊三氏は、文藝春秋社勤務の時分、夜行列車のダイヤとにらめっこしては土日の鉄道旅行の予定を組むのが楽しみであったという。当時は、東京駅や上野駅から、鉄路の続くところあらゆる方へ夜行列車が発車していた時代だった。私が物心ついたころには「ブルートレイン」はほぼ死語同然となっていたし、今ではJRの夜行列車は旅行商品ありきの高級ツアー列車に、季節限定のムーンライトながら、あとは中四国へと向かうサンライズだけである。

 だが、夜のうちにどこかへ行ってしまいたい、という人間がいなくなったわけではない。東京駅や新宿駅のバスターミナルから出ていく長距離夜行バスは、たいがいよく埋まっている。

 金曜日の22時過ぎ、地下街の中華屋で餃子、炒飯をアテにチューハイを飲んだ後、9割方席の埋まった三列独列シートに乗り込む。窓際の席ならば、カーテンの隙間から高速道路の照明が移ろっていく様子が見れるのだが、あいにく今回は中央の席。両サイドはきっちりカーテンが閉められ、前のおばさん、後ろのおっさんどちらともお互い不干渉が礼儀というもの。ひじ掛け脇のコンセントにスマートホンを差し込み、照明の消された車内で煌々と弄った。単調な揺れが続くありきたりな車内の闇に酔い、昨日忘れようとしたどうでもいい後悔が胸を埋めては、できなかったこと、言うべきではなかったことをひとつふたつと数え、時間の輪郭をぼやけさせる。ふとGPSを確認すれば、もう宇都宮を過ぎたあたり。

 それでも、どうせ酒に沈み小汚い寝床で朝を迎えるならば、どこかへと動いているだけ前向きでしょう。

 日付が変わって1時ごろ、ようやく宮城県を出ようというところで、乗務員が交代する。みちのくを北へ北へ走り、花輪インターでの休憩を挟んで、定刻通りの朝8時に、遠く青森駅へと到着した。

 青森でやることは決まっている。朝からやっている温泉銭湯に入り、煮干しの香るラーメンを喰う。三割程度のシャッター街である駅前の商店街はまだ街並みを保っており、散歩するのもそれなりに楽しい。魚屋、八百屋などは観光客相手の商売も貪欲で、朝から冷やかすこともできる。一通りルーチン・ワークをこなしたら、駅前から青森競輪場行きの送迎バスに乗り込もう。本日は開設69周年開設記念、3日目準決勝の開催日だ。

 青森競輪場は市街地からかなり離れた山中にあり、青森駅からの送迎バスで20分以上を要する。現在の競輪場に移転する前は陸奥湾に面した合浦公園にあったというから、往年の「ギャンブル公害」論と広い駐車場など土地を求めての移転だったのだろうか。客の大半は自家用車で来場するのだろう、送迎バスも輸送の密度は薄い。それはよいとして、復路の方が設定本数が少ないのはどういう理屈なのだろうか。復路のバスは、案内所で事前に整理券を受け取る形式。これを取り忘れると、タクシーを使用する以外帰る手段がないという羽目になりかねない。勝ってのお大尽ならまあよいのだけれど。

 さて、もうひとつ運営方面について述べておくと、青森競輪場といえば、全国で唯一厳格な写真撮影禁止ルールが布かれていた。他場も、トラブル防止のためほかの客は写すなだとか、選手の肖像権管理の問題から競走中の撮影はいかんだとか――いわき平はこれ――それぞれやってよいこと悪いことに微妙な違いがあるのだが、完全禁止は全国43場中青森だけ。この種の規制は現場レベルでは空文化しているかと思いきや、ここは場内でスマートホンをちょっと横に構えようものならすぐ警備員が飛んでくる、というガチガチの運用に辟易した記憶がある。

 ところが、場内に入場してみると、以前掲げられていた「写真撮影禁止」の掲示がなくなっている。券売機前にいた警備員に尋ねてみれば、勤務し始めて日が浅いのか「よくわからないので、聞いてきます」と少し離れたところにいた上司を呼んできた。この責任者氏、青森競輪場の業務を受託している、公営競技界では名を知られた会社名を胸につけている。曰く、「ええ、写真撮影は、今は大丈夫ですよ」とのこと。ルールが変更になった細かな経緯は聞けなかったが、旅打ち派としてこれはうれしい。場内にはwifiが導入されているなど、環境整備もこつこつと進んでいるようだ。

 記念競輪も3日目、大きめに張り込みたい。2R、巴直也(S級2班、神奈川101期)を使った稲村好将(S級2班、群馬81期)が1着、2着に地元の開坂秀明(S級2班、79期)が来て筋違い。5R、逃げる隅田洋介(S級2班、栃木107期)以下の関東ライン、最終バック前から捲った酒井拳蔵(S級2班、大阪109期)ら西日本ラインを、点数抜ける地元坂本周作(S級2班、青森105期)が直線突き抜けアタマ。だが、番手の佐藤朋也(S級2班、秋田89期)はついていったが3着までだ。場内から「根性なし」とのヤジが飛ぶ。かわいそうなことである。

 昼飯にスタンド内にある煮干しの濃いラーメンをいただき、さて7R。「なんでもやる」宣言の小埜正義(S級2班、千葉88期)と福島ライン連携が人気。小埜はジャン前高久保雄介(S級1班、京都100期)の番手を狙い三谷将太(S級1班、奈良92期)と競るも脚の浪費で終わり、直線大外を伸びた牧剛央(S級2班、大分80期)が1着。後ろは近畿勢がそのまま流れ込み、3連単87,370円の高配当。8Rでは、不調の武田豊樹(S級S班、茨城88期)が海老根恵太(S級1班、千葉86期)になすすべなくつぶされたが、海老根も前の桐山敬太郎(S級1班、神奈川88期)に離れてしまう。ここも、三連単が10万円を超える筋違いの決着だ。

 準決勝前、最後の負け戦となる9Rは、競走得点からして小川真太郎(S級1班、徳島107期)が抜けている。連携の同県堤洋(S級1班、徳島75期)も盤石で、別線の自力・マーク屋はみな今節調子が悪い。それでいてこのライン折り返しで2倍以上つけるのはじつに甘い。ここだな。ふだんの1レースに賭ける3倍ほどの額を、このライン決着に投じた。

 果たして、ジャンから前に出た小川はペースを緩めつつ、最終ホームで余裕の発進。庄子信弘(S級2班、84期)も出ていたが合わせられる格好となり不発、そもそものスピードからして違った。そのままほぼ1本棒で最終バック、直線へ。堤も最後迫ったが小川が押し切り1着、3着にも戸田洋平(S級2班、岡山92期)が入る見事なラインでの決着となった。この二車単で360円なら良すぎるくらい。だいたい高速バス代くらいは回収できたかな、と頭の中で勘定が働く。遠く青森までやってきて、車券を当ててはちまちま計算する。さもしい話だ。いっそ外れればよかったな。

 そんなどうでもよい思考を中断させたのは、後ろの席で寝っ転がってウチワを仰いでいた爺さまだった。起き上がるや、白シャツ一枚脱ぎ上半身裸になったのだ。おお、こりゃ青森は開放的だな。とはいえ、記念開催だから周囲には子連れの夫婦などもそこそこいる。すると、30前後だろう小太りの警備員がそっと爺さまに近づき、両手をあわせなにかを頼んだ。いや、「裸は勘弁してくれ」というような意味だったのだろうけれど、私の頭の中で音と意味が一致しない。年配の方が話す青森の言葉は難解であるが、音の繋がりに不思議なリズムのよさがある。

 相手にあわせているのだろう、警備員氏との会話は愉快だ。別に文句をいうわけでもなく、爺さまは白シャツに袖を通した。痩せ型で無駄な肉のない顔からの、ぼそっとした口の動きとは、まるで印象が違う軽やかな音が「すまなかった」といったのだろうな。仕事熱心な警備員氏は、満面の笑みを爺さまに向け、おそらくは「ありがとう」というような意味を跳ねさせた。

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東京駅八重洲南口バスターミナルやバスタ新宿の「どこへでも行ける」感はよい(2019.9.6)

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青森市内には温泉の銭湯が多い。新青森駅から徒歩15分ほどのあさひ温泉は、そこらのスーパー銭湯なみの浴槽を備える(2019.9.7)

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青森駅至近ならば、青森まちなかおんせん。ホテルの大浴場を銭湯価格で解放してくれる(2018.4.21)

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青森駅前の商店街にあるくどうラーメンは、早朝からやっている伝統の煮干し味(2018.4.21)

 

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令和2年現在、工藤ラーメンは移転済(2020.8.9)

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敷地内でも、入場前はまだ撮影オーケーだった(2018.4.21)

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(2019.9.7) 

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(2020.8.9)

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 (2020.8.9)

中野慎詞のデビュー以来無敗連勝記録での記念Vを見に多くの人が……というわけでなく、ライダーショーと縁日でファミリーが大集合していた(2022.9.11)


(2022.9.11)

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記念開催日のみ、五所川原便など遠方まで運行するので、気になる人は乗ってみるのもよいかもしれない(2019.9.7)

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バスターミナルは長め(2020.8.9)

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往年の写真撮影禁止の掲示。飲酒や競走への妨害と同列というのもすごい話。実際はこそこそ隠れて場内をいくつか撮ったが、さすがにアップは憚られる(2018.4.21)

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でもさすがに壁ならいいだろ……青森競輪場の選手宿舎は温泉になっており、非開催日は一般解放される。さすがに、開催してないのに遠征するのはハードルが高い(2018.4.21)

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(2020.8.9)

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場内の食堂のラーメンライスも、ちゃんと煮干しラーメンなあたり青森県はすごい(2018.4.22)

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(2019.9.7) 

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近年、すっかり全国区となったスタミナ源たれで作ってくれるポーク丼(2020.8.9)

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土産物屋でも絶賛増殖中の源たれシリーズ(2020.8.11)

従来はスタンドの両端にあった食堂を、通路側に改装設置しフードコート化。この日は記念開催・ライダーショー目当てのファミリー層でパンク気味だったが、普段の客入りを思えばこの方が便利(2022.9.11)

煮干しラーメンは健在(2022.9.11)

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(2020.8.9)

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スタンドは古めも立派(2020.8.9)

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 左側が入場門(2020.8.9)

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なぜか、スタンド内の壁面には欧州の風景写真が貼ってある(2020.8.9)

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スタンド裏側にも飲食長屋があるが、ほぼ全滅。一軒だけ開いていた店があったが、「今日は食堂やっていない、飲み物しかない」とのことだった(2020.8.9)

毎度私の日取りが悪いのかもしれないのだが、青森駅前のホテルは空きが少ないか、高いことが多い。その場合、弘前駅前が穴場(2022.9.11)

土日祝全線100円だったので、せっかくならと温泉に。乗客はそれでも、高校生一人におばさん1人、おっさん2名でしたが……(2022.9.11)

(2022.9.11)

(2022.9.11)

(2022.9.11)

(2022.9.11)

(2022.9.11)

学生時代に来たときは古かった共同湯だが、リニューアルオープン(2022.9.11)

(2022.9.11)

(2022.9.11)

帰りの便は「金魚ねぷた列車」でした(2022.9.11)

(2022.9.11)

競輪場までの無料バスがあるという意味では、五所川原も一考か。駅前のバス待合所はいい感じに渋い(2018.4.22)

(2018.4.22)

(2018.4.22)

五所川原まで来たのならば、金木の太宰ゆかりのあれこれも。斜陽館(2018.4.22)

斜陽館ほど有名ではないが、太宰が実際に暮らしたという離れも近年公開された(2018.4.22)

(2018.4.22)

金木からほぼ真西、日本海に面する高山稲荷神社。タクシーの運転手さん曰く「先代の宮司は全国組織でも相当偉くなった人だった」とのことで(※工藤伊豆第22代神社本庁総長)、こんな青森の果て(失礼)とは思えないほど立派、千本鳥居はフォトジェニック。当時は様変わりしているだろうが、太宰の「津軽」にも、初めて海を見た遠足先として言及がある。(2018.4.22)

(2018.4.22)

(2018.4.22)

(2018.4.22)

登り切った先には、古いお稲荷さんの狐像、石仏なんかが集められている(2018.4.22)

裏から浜辺に出られます(2018.4.22)

前橋競輪場 寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント GⅠ

●初日
1R S級一予 09.5-09.6-09.6-09.3(19.1-18.9=38.0) 捲 乗 捲 9 9 9(10.7)
2R S級一予 09.6-09.7-09.6-09.9(19.3-19.5=38.8) 差 捲 捲 7 7 7(10.1)
3R S級一予 09.5-09.3-09.6-09.8(18.8-19.4=38.2) 捲 乗 先 3 3 3(10.0)
4R S級一予 09.7-09.5-09.6-09.7(19.2-19.3=38.5) 差 捲 番 3 8 8(10.2)
5R S級一予 11.0-09.4-09.4-09.6(20.4-19.0=39.4) 捲 乗 乗 5 5 5(09.8)
6R S級一予 10.1-09.3-09.6-09.9(19.4-19.5=38.9) 差 捲 先 3 3 3(10.0)
7R S級一予 10.3-09.0-09.4-09.4(19.3-18.8=38.1) 捲 乗 乗 1 9 1(10.4)
8R S級一予 10.1-09.3-09.6-09.7(19.4-19.3=38.7) 捲 捲 流 8 8 1(09.7)
9R S級一予 12.6-10.5-09.6-09.5(23.1-19.1=42.2) 差 逃 マ 2 2 2(09.6)
10R S級初特 09.0-09.5-09.9-09.3(18.5-19.2=37.7) 捲 捲 乗 9 9 4(09.8)
11R S級初特 09.6-08.9-09.3-10.0(18.5-19.3=37.8) 追 差 捲 4 4 4(10.1)
12R S級日競 09.5-09.6-09.2-09.5(19.1-18.7=37.8) 捲 差 先 9 3 3(09.7)

●二日目
1R S級特般 09.9-09.5-09.6-09.9(19.4-19.5=38.9) 捲 乗 追 7 7 7(10.0)
2R S級特般 10.0-09.1-09.4-09.9(19.1-19.3=38.4) 先 追 番 8 1 1(09.9)
3R S級特般 11.5-09.1-09.2-09.7(20.6-18.9=39.5) 先 流 追 4 4 4(09.9)
4R S級特般 09.1-09.2-09.5-10.2(18.3-19.7=37.9) 逃 マ 追 1 1 1(10.2)
5R S級特般 09.9-09.5-09.3-09.5(19.4-18.8=38.2) 先 捲 捲 9 9 1(09.5)
6R S級二B 12.0-11.1-09.8-09.6(23.1-19.4=42.5) 追 捲 追 4 4 4(09.7)
7R S級二B 11.6-09.6-09.2-09.6(21.2-18.8=40.0) 捲 番 乗 4 4 4(09.7)
8R S級二B 09.4-09.5-09.8-10.1(18.9-19.9=38.8) 捲 番 追 6 6 6(11.0)
9R S級二A 09.2-09.4-09.5-09.5(18.6-19.0=37.6) 捲 先 乗 9 7 2(09.6)
10R S級二A 09.4-09.2-09.5-09.8(18.6-19.3=37.9) 捲 捲 追 8 8 7(10.2)
11R S級二A 10.2-10.1-09.3-09.4(20.3-18.7=39.0) 先 マ マ 8 5 1(09.5)
12R S級ロC 10.4-09.4-09.3-09.7(19.8-19.0=38.8) 差 差 追 4 4 4(10.1)

【六・七場目】伊東温泉競輪場、松戸競輪場

 時代が変わるというので、大きな連休が来た。しかし、私は皇室への崇敬にそれほど篤くなし、かといってこれを機に大仕事を成し日本国政府を大いに恐怖せしめてやろう、と陰謀を巡らすべきある種の思想を有しているわけでもない。大してやることもないので、規則正しく健康的に、勤勉至極にも競輪場へばかりいっていた。

 

 平成も最後の日曜日、伊東温泉競輪へと向かう。この日は、短期登録の外国人選手が出場する、国際トラック支援競輪の最終日である。伊豆は大観光地であるから、鈍行列車の東海道線伊東線も車内は家族連れでそこそこの賑わい。その中で、ロイド眼鏡に黒の学帽、外套を羽織った男が目立っていたが、なにかの文学コスプレ大会でもあるのだろうか。伊東温泉競輪といえば、かの坂口安吾御大がはまり込み、写真判定を巡り裁判まで起こしたという、たいへん由緒ある土地であったことなどを思う。

 伊東駅着、列車はこの後も伊豆急として下田まで向かうが、過半の客がここで降りた。伊東温泉競輪に行く際は、場内の食事事情を考慮し、伊東駅の老舗駅弁屋「祇園」が出している駅ソバなどを食べてから、駅前のロータリーからでる送迎バスに乗るのが通例である。しかし、改札を出て左手、コインロッカーの横にあった小さな立ち食いソバ屋は、白い覆いがかかり閉じられている。そこにあった張り紙には、駅側へ店舗が移転した旨。戻ってみると、新たに室内にチェーン系コーヒーショップとお土産屋とができており、そのならびに祇園の店舗も移っていた。しかし、並んでいるのは稲荷寿司や幕の内弁当ばかりで、ソバツユを入れた鍋は見当たらない。

 6個入りの稲荷寿司を買い求め、食べながらスマホで検索したところ、3月の店舗移転をもって、ソバ屋を廃業するという記事が見つかった。真新しい店舗の表示、この伊東駅名物を称する稲荷寿司の掛け紙などにも、「創業1946年」の文字があるが、そもは駅ソバ屋であったはず。稲荷寿司は関東風に白酢飯が詰められたもので、冷たいがとても甘かった。

 伊東温泉競輪場は、伊東駅からバスで市内を走り10分ほど。特筆すべきはその立地で、川辺の斜面を切り崩しバンクを作り、さらに斜面上にスタンドを配している。なので、競輪場の入り口は町がある平地側から川を橋で渡るし、場内は上り坂が多い。バンクのバック側はまたすぐ斜面になっている。その分、スタンド自体がバンクに対して高いから、二階席からでもサンサンバンクをはっきりと見下ろせるのがよい。

 外国人選手が出走するのは、9Rのガールズ戦と、最終の決勝戦。ガールズはふだんあまり見ないが、日本人では小林優香(福岡106期)が筆頭。外国人のグロ(フランス)とファンリーセン(オランダ)両者の実力は、トラック競技での実績から明らかだろう。オッズの方は、二車単でファンリーセン→グロが5倍を切る1番人気、しかし次点はその裏ではなく、小林→ファンリーセン、ファンリーセン→小林と続く。やはり、こういうのは日本人選手が買われるものなのだろうか。しばし考え、観戦料に1番人気の二車単を小銭で買った。

 競走が始まる。外国人勢はグロ→ファンリーセンの並びで後方6・7番手、小林は太田りゆ(埼玉112期)の後ろ二番手を取った。打鐘から、鈴木奈央(静岡110期)と石井貴子(千葉106期)の南関ラインが先行する。最終ホームでグロが浮き気味ながら進出を開始しようとしたところを、先頭から4番手にいた小林は見逃さなかった。これが勝負ありで、小林にあわされグロは不発、そのまま捲った小林が1着。建て直したファンリーセンも自分で捲って2着、石井貴子は最終バックで番手捲りにでて抵抗したが、最後は後ろにいた太田にも交わされ、太田の方が3着となった。勝った小林には、場内からは多くの拍手があがり、日本の競輪を守った小林を讃えている。

 少し場外へ出て温泉などに浸かってから、さて最終の決勝である。こちらは、直後に開催される日本選手権競輪にS級の上位選手がことごとく出場予定のため、もとより日本人選手で外国人勢に抵抗できそうな者はいない。問題は、外国人3名でだれが290万円という「ビッグマネー」を掴むか、である。

 事前に行われた決勝戦選手紹介で、マティエス・ブフリ(オランダ)は腰の状態ついて通訳を通し「あまりよくない、けど先行なら大丈夫」と答えていた。二日目の優秀戦では、ジョセフ・トルーマン(イギリス)→マシュー・グレーツァー(オーストラリア)→ブフリ、と並んでいる。ここはブフリ→グレーツァー→トルーマン、と連携。調子落ちのブフリが機関車役に徹するというのがもっぱらの見立てで、オッズもグレーツァー頭からの一本化被りだ。ふだんは個の力で競技を戦っている選手たちだが、日本に来ればこのとおりである。

 しかし、初日準決の走りを見るに、調子を考慮してもブフリも勝負圏外とは思えない。普通に走ればラインの先頭から差されない目もあるはずで、このオッズは行き過ぎでは、と車券はブフリの頭から流した。

 が、賢しく世の中を斜めに見てみても、世の中の見立てが正しいというのはよくあること。果たしてブフリは青板周回から率先して早駆けし、最終的には垂れて5着。1番人気で決まったトルーマン→グレーツァーの二車単は180円だった。

 なんの理由もないけれど、帰りは沼津行きのバスに乗った。連休の渋滞をのろのろと抜け、伊豆半島の真ん中険しい山道を、ぐーるぐーると登っていく。そういえば、伊東温泉は先日の記念でも、郡司浩平(S級1班、神奈川99期)が死に駆けして地元の渡辺雄太(S級1班、静岡105期)を優勝させていたな。山を下りると沼津はもうすぐ、東伊豆の海岸線とマリーナが見えた。

 

 それから数日は、近所の取手競輪場でワンタンメンを食べたり、函館競輪場のナイターを家でだらりと打ったりして過ごした。30日からは、いよいよこの連休にある日本最大級のイベント、松戸競輪場で開催される第73回日本選手権競輪である。

 わたしの地元での開催であるから、当然現地で観戦しなくてはならない。初日は予選だけだから止したが、果たして元号が変わった5月1日の2日目からは、毎日10時過ぎには松戸競輪場に着くよう、常磐線で乗り込んだ。早々に、おや新山響平(S級1班、青森107期)はかかりがよろしくないだとか、なにをトチ狂ったかいきなり逃げて4着になった小嶋敬二(S級1班、石川74期)――コメントによると、オールスターへのアピールらしいのでご投票を――のダッシュがけっこういい数字ぞ、など車券攻略上の手がかりもそこそこ見えた。

 だが、私の車券は最終日まで一回も当たらなかった。車券を外すというのは、仕方がないことである。自分の選手の実力評価、展開予想が誤っている、また選手がベストを尽くすも惜しく届かない、というのは当然あり得る。しかし、外し続ける、というのはよろしくない。こういう際は往々にして、なにやら惜しい外れが続いていたりする。逃げた選手から番手との折り返しを持っているのに、最後別線の追い込み屋にギリギリ差されて3着だとか、大穴選手の頭を狙いインからするする伸びてくるも2着まで、とか。それでも、己を律することができない者に賭博の神様は微笑まない。「大丈夫、間違っていない。次はくる」と唱え続けて進むしかないが、ひらりひらりと負けは続く。

 毎朝起きて、前日の競走を見返し、家を出て競輪場に着く。レースを観戦し、松戸のヤジはでかいなぁとしみじみし、車券買い、外す。家に帰る。この繰り返しを2日も3日も続けていると、いい加減変わり映えもせずなにをしているんだ、と嫌になる。それでもここまで来たら、やはり毎朝10時過ぎには、北松戸駅の陸橋で線路を渡っている。

 令和元年5月5日、時代を跨いで6日間続いた日本選手権競輪も千秋楽。1Rからじっと我慢し続け、勝負するのは第7競走の特選(一)。ダービー3連覇が期待されていた三谷竜生(S級S班、奈良101期)から人気も、今節のかかりは非常に悪い。小松崎大地(S級1班、福島99期)は常日頃から競走の組み立てがしょうもなく、ならば同期の竹内雄作(S級1班、岐阜99期)。この開催も果敢な先行でよい時計を出しているが、6番車ということもあって人気がない。二車連携でもう一人が誰になるかわからないので、荒れ目を期待し竹内のアタマから3連単を総流しした。

 思惑通り、赤板ホームから竹内が押さえてそのまま先行。三番手を簗田一輝(S級1班、静岡107期)と松岡貴久(S級1班、熊本90期)が取り合い――小松崎は案の定、松岡に一瞬で捌かれていた――、松岡がこれを制す。最終ホーム、S取りから一度下げていた三谷が再発進で捲りに来るも、これを2角で松岡が完ぺきなタイミングで合わせて止めた。ほれぼれするような技に、客席からもどっと声。後ろが激しいやりあいですんなりの先行となった竹内は、そのままスピードを落とさず最終バックを通過、マークの近藤龍徳(S級1班、愛知101期)を振り切り逃げ切った。松岡は直線3番手で回るも、さすがに脚が尽きたのだろう。後ろを回った岩津裕介(S級1班、岡山87期)が伸びてこちらが3着。3連単は29,940円、2枚持っていたから、令和の初当たりとしては悪くない。

 決勝で脇本雄太(S級S班、福井94期)の強さに改めて感嘆し、松戸駅前へ出て最終日のみ同行していた知人らと酒を飲む。一軒目はチェーン店、続いて松戸で安く飲むのなら外せない大都会へ。食券制のセルフサービス、24時間営業、令和元年5月時点でチューハイ・ハイボールの類が1杯100円からというこの店は、いつ来ても妙なテンションの高さがある。

 が、さすがに10連休だけあって、この日は21時で閉店するとのこと。だが、20時半を回っても店内は満員だった。店員も休みを目前に忙しさ極まった様子で、食券の半券――記載された数字を照らして、だれのものかを確認するシステムになっている――とネギトロ、焼き鳥、フライに揚げたタコ焼きなどを並べては

「もう、どうでもいいよ。誰でもいいから持ってちまえ。どうでもいいんだって」

と、すっかりやられたオケラみたいなことをつぶやいていた。

 そう、平成も令和も、たぶん多くのことはどうでもいいのだろう。知人に、今日はでかいのを当てたから払いはそちらな、と笑いかけられ、この連休の収支を計算してみた。交通費と新聞代を除いてみると、出入りの差は数千円もなかった。

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(2016.11.23)

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往年の祇園の「唐揚げソバ」。(2016.11.23)

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唐揚げは別売りもしている(2017.7.9)

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(2017.7.17)

 (2022.12.25)

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競輪場へ渡る「競輪橋」(2016.9.7)

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入場門の外向き発売所では、直近まで黒板書き成績が現役(令和元年時点で廃止)(2016.9.7)

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(2020.2.15)

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(2017.7.17)

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(2019.4.28)

(2022.12.25) 

スタンドの鉄骨は、そろそろ限界ではと思う(2022.12.25) 

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開催によっては、二階席が閉鎖される(2020.2.15)

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場内の食事事情は非常に悪いのが伊東の泣き所。この酢だこなどは一応名物ということになっている(2017.7.17)

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4コーナー側のそばコーナーのてんぷらそば。てんぷらは野菜と衣多め(2020.2.15)

(2022.12.25)

飲食店がリニューアル・統合されたが、まあ出しているものは変わらない (2022.12.25)

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豊富な湯量を背景に、伊東は温泉銭湯が多くて安い。競輪場から徒歩5分の鎌田湯(2019.7.17)

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リニューアルした伊東駅祇園(2019.4.28)

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(2019.4.28)

熱海から伊東へは、伊豆急の観光車両が多い(2022.12.25) 

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(2019.5.2)

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(2019.5.5)

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S級シリーズ、吉井秀仁杯フラワーラインカップにて(2019.12.8)

(2021.11.19)

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松戸も場内の食事事情はよろしくない。競輪場内で飲酒が禁じられていた時代の名残の場外食堂がまだいくつか生きているので、そちらが無難。21世紀に「大衆食堂」を高らかに名乗るこちらの義野屋は中継も流れている(2019.5.3)。

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(2019.5.3)

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(2019.5.3)

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(2019.5.3)

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サービスランチ。かなりちゃんとした精進揚げが出てくる(2019.5.4)

場内の屋台で売っている焼き鳥1本100円。とにかく、甘いんだこれが。(2021.11.19)

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特観席にて(2019.9.30)

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特観席の食堂にあった「ミニバイキング」(2017.9.30)

そんな松戸にさっそうと登場した「ビールと肉の店」With Dream。ここはかなり良い(2021.11.19)

(2021.11.19)

(2021.11.19)

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千葉競輪場改築中につき、この年の滝沢杯は松戸で(2018.10.14)

競輪場の施設所有者である松戸興産は、東京ドームの系列会社。なので、こんなものも。(2021.11.19)

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(2017.9.17)

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期間限定というが、ずいぶんと続いている。そもそもの値段からして安いしね(2018.10.13)

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(2017.9.17)

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(2018.10.13)

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ラーメンも置いている(2017.9.17)

大宮競輪場 エート杯争奪戦 FⅡ

●初日
1R Aチ予選 21.3-16.9-14.5(21.3-31.4=52.7) 捲 乗 先 6 6 6(15.0)
2R Aチ予選 18.1-15.0-14.9(18.1-29.9=48.0) 差 追 追 4 1 1(15.0)
3R Aチ予選 21.6-15.9-14.3(21.6-30.2=51.8) 差 捲 乗 2 4 4(14.7)
4R Aチ予選 19.0-14.9-15.4(19.0-30.3=49.3) 先 マ マ 5 1 1(15.4)
5R Aチ予選 16.9-16.3-15.3(16,9-31.6=48.5) 逃 マ 流 6 1 1(15.3)
8R A級特予 18.1-15.3-15.2(18.1-30.5=48.6) 抜 番 追 9 4 4(15.3)
9R A級特予 19.3-15.8-14.4(19.3-30.2=49.5) 先 マ マ 9 1 1(14.4)
10R A級特予 17.2-15.0-14.8(17.2-29.8=47.0) 先 追 流 7 1 8(15.4)
11R A級特予 19.9-14.6-15.3(19.9-29.9=49.8) 差 追 追 8 6 6(15.4)
12R A級初特 17.0-15.3-14.7(17.0-30.0=47.0) 追 捲 捲 2 9 9(16.1)